弦楽器工房こばやし

小田原の弦楽器工房こばやしのブログです。仕事をしていて感じたあれこれを週一くらいで徒然と書いていきます。

見ること、聞くこと。

こんばんは、弦楽器工房こばやしです。

先日の話ですが、ウクレレの修理を依頼されました。専門外ですが、妻の伝手で「見るだけ見てほしい」とのことでお預かりしました。

修理の内容は…

調弦しづらく、また調弦してもすぐに音が下がってしまう。ペグがおかしいのか、それとも他の部分がおかしいのかもわからない。

とのことでした。ペグと言っても、楽器によって形状や巻き方も様々です。バイオリン属ですら、コントラバスとその他の楽器ではまるで作りが違います。

それでも、調べてみるとウクレレ調弦の仕方や、ペグの調整方法はいくらでも出てきます。

とりあえず見てみないことには始まらないので、お預かりしました。

実際に手にとって見るとペグに問題がないことはすぐにわかりました。調弦した状態でピッタリ止まりますし、四本あるペグのどれかが特に硬かったり柔らかすぎたりもしていません。

ただ、弦の巻き方が間違っていたので、それは直させていただきました。お話を伺うと、最初からこの状態とのこと。海外のお土産品だったということで、そこまで作りにこだわっていなかったのでしょうか。

調弦をして、しばらくすると音が下がってくるのがわかりました。お土産として貰ってからほとんど弾いていないということを聞いて、納得しました。つまり弦が落ち着いていない状態だったのです。

こんなブログを読まれる方ですと皆様ご存知と思いますが、新しい弦は張り替えてから音程が変わらなくなるまでしばらくかかります。引っ張られて伸びていくものですから、これはある意味当然です。調弦を繰り返して伸びきってからが弦の本領発揮というところです。

このウクレレも貰ってからほぼ弾いていない状態だったようなので弦が伸びきっていなかったのですね。おそらく最初に貼られたあと伸びて緩んだままだったのでしょう。

私の手元にあった数日で何度か調弦をしましたが、安定するには至りませんでした。ただ、これは弾いていけば必ず落ち着いていくものなので、お手数ですが毎回弾く前に調弦をしてください、ということを説明してお返ししました。

 

このお話だけですと、専門外の楽器でもなんとかなりました、というだけのお話なのですが、余談がありまして…。

私のところに調整に来る前に他の業者さんに見せたようなんですね。

そこで言われたのはペグ調整で2〜3万円という見積もりだったということで…。

ちょっとそれはあんまりじゃないかな、と。

ほとんどのユーザーさんは修理業者よりも楽器の知識がありません。これは多分、お医者さんにかかるのと同じ感覚だと思うのですが、

「見せて、言われた通りに治してもらい、お金を払う」

しかないと思うのです。どれだけ書籍やネットで知識をつけても、専門家には敵いません。実作業を行っている側が誤魔化そうとすればどうとでもなってしまうのが現実です。

だからこそ、お客様の話を聞いて、実物を見て、何をしたら良いのか、何をして欲しいのかをしっかり拾い上げることが必要なことだと思います。

今回のお客様がこのウクレレを、どういう風に最初の業者さんに見せたのかはわかりません。ですが、もし実物を見ての判断だとしたら弦の巻き方くらい指摘してその場で直せるはずですし、ペグに問題がないのもわかったはずです。仮に電話だけのご相談だったとして、実物を見もせずに数万円の見積もりを出すのはいかがなものかと思います。

職人として、実物をよく見ること。お客様のご要望をよく聞くこと。

今回のことは自分への戒めとして、肝に命じておこうと思いました。

 

弦楽器工房こばやしは小田原の栢山から、弦楽器の出張修理を承っております。

詳しくはホームページをご覧ください。

https://musical-instrument-repair-shop-51.business.site