弦楽器工房こばやし

小田原の弦楽器工房こばやしのブログです。仕事をしていて感じたあれこれを週一くらいで徒然と書いていきます。

修理価格の謎

こんばんは、弦楽器工房こばやしです。

弦楽器の修理、お高いですよね…!

弓の毛替え、5,000円もします。表板や裏板を剥がしての修理になると、楽器を開けるだけで20,000円もかかります(こばやし価格)。

もちろん、私の工房ではお客様にご納得いただいた上で修理をさせていただいていますが、時々質問されるのが、

「修理代金が楽器の価格に近くなってしまう(あるいは超えてしまう)のはなぜ?」

ということです。

まずは楽器を製作することと、修理することが全く別の作業だと言うことをご理解いただきたいと思います。

学校で小さい頃やった工作を思い出してください。例えば、折り紙を貼り合わせて箱のようなものを作ったとします。

貼ることは難しくありません。形がいびつでも糊さえついていれば簡単に紙同士をくっつけることができます。

ところが、このくっついた紙を、両方にダメージを極力あたえずに綺麗にはがすのはどうでしょう。難易度が跳ね上がると思いませんか?

 

仮にバイオリンの表板が割れたとして修理の工程を書き出してみます。

まず、損傷箇所を確実に確認し、作業を容易にするために、表板を楽器からはがします。

大抵の場合、象嵌の合わさっている四隅、「剣先」の部分に薄い刃のナイフを入れて慎重にはがしていきます。

苦労するのはブロックが入っている部分です。

いま説明した剣先の四箇所、エンドピンが入る底部、そしてネックを支える上部の六ヶ所がブロックの入っている場所です。

これ以上割れないように、また横板、表板に余計なキズをつけないように気を使う作業です。

綺麗にはがせたら割れた部分を接着します。接着した後は「パッチ」と呼ばれる木片を貼り付けて割れた箇所を補強します。いわば、木の絆創膏です。

パッチは厚み1ミリ、一辺8ミリほどの正方形を私は使いますがいろいろな形があると思います。貼ったときは角が出ている状態なので、貼り付けたのちに平ノミ、紙ヤスリで角をとります。

そして、はがしたのと同じ位置に表板を再接着です。

製作のときと同じ作業になるのはこの再接着だけです。それですらネックがある状態での接着ですので厳密には同じ作業ではありません。

その後、割れた部分にニスを塗り、周辺の色と合わせて目立たないようにするリタッチという作業があります。色味は楽器によって違うので、例えば車の色のように同じ色のマーカーを買ってくれば合うというようなものではありません。三原色+黒でその楽器の色を作って塗っていきます。

 

バイオリン属の楽器は、3〜400年くらい前から形が変わっていない完成された楽器です。10万円以下くらいの、いわゆる普及品と言われる楽器も、何億もする名器も作りは変わりません。

普及品が安くできるのは人件費が安い海外で、完全に規格化された部品を大量に作って組み立てるという方式を採っているからです。

修理は割れ一つとっても同じ位置が同じように割れることはありません。

修理はオーダーメイドなんです。

また、長文になってしまいました。修理価格が高くなってしまう理由が少しはご理解いただけたでしょうか…?

ちなみに私の工房では、HPにもありますように目ぼしい修理は一覧で価格表にしてあります。

興味がありましたらご覧ください。

 

弦楽器工房こばやしは小田原の栢山から、弦楽器の出張修理を承っております。

詳しくはホームページをご覧ください。

https://musical-instrument-repair-shop-51.business.site