弦楽器工房こばやし

小田原の弦楽器工房こばやしのブログです。仕事をしていて感じたあれこれを週一くらいで徒然と書いていきます。

新年のご挨拶…と自己診断③

あけましておめでとうございます。

弦楽器工房こばやしです。

今年もよろしくお願いいたします。年が変わってもマイペースで続けてまいります。

こんな趣味丸出しのブログも気がつけば半年が過ぎていました。仕事をしていると自分の未熟さや無知に気づかされます。書きはじめた当初は「ブログなんて書けるのかなぁ」と思っていましたが、日常仕事の中で気づかされたことや、新しく知ることはとても多く、書くネタについては心配なさそうではあります。

読んでくださっている方が興味を持てるかどうかはまた、別の話でしょうが…。

 

さて、自己診断シリーズのその③です。

今回は弾きやすさに直結しながら、弾いているご本人がなかなか気づけない弦の高さ、「弦高(げんこう)」についてです。

ご存知の通り、バイオリン属の楽器は木製です。ほとんどの楽器の表板はスプルースで、裏板、ネック、横板はメープルでできています。

そして、以前も書きましたがバイオリンのフルサイズで4弦トータル15〜20kgほどの張力が、絶えずかかっています。

5歳くらいの子どもが全力でネックを引っ張っている状態ですね。例えとして正しいかわかりません(^^;; が、結構な力ですよね。

当然、木ですから弱いところから曲がってきます。曲がりやすい場所はバイオリン本体を見てみれば一目瞭然、最も細い場所、ネックです。

ただし、ネックの握り…グリップと呼びますが、そこから曲がることよりも、本体との接合部近くから変形することの方が多いです。

グリップは指板込みで大体18〜21㎜くらいの厚みがある削り出した木の塊です。かなりの強度があり、接合部と比べるとはるかに強いことが多いです。

ネックと本体の接合部が変形するということは…感覚としては弦を引っ張られることでネックが本体に対して表側に起き上がってくる感じです。

ネックが起き上がってくると、指板は表板側に下がります。指板が下がると弦と指板の高さである「弦高」が上がり、弦を押さえにくくなります。

「ネック下がり」という症状ですね。いろいろな場所が下がったり上がったり認識が難しいところですが、そういう名前になります。

これを避ける方法は…ありません。毎日演奏が終わるたびに弦を緩めれば軽減はできるでしょうが…駒や魂柱が倒れる方がリスクとしては重大です。

ならばどうしたらいいのでしょうか。

答えは「指板が下がったところまで駒を削って下げる」です。

そのためにバイオリンの駒は、高さを合わせられるように削りしろが残っています。

ネックも下がりすぎるとネック角度を上げる大修理が必要となりますが、ほとんどの場合駒を削ることで弾き心地を元に戻すことが可能です。

さて、お待ちかねの自己診断です。前置きが長ーい。

このネック下がり、じわじわと進行していくので、演奏しているご本人が一番気づきにくいという特徴があります。

楽器を買って2〜3年経ち、演奏に慣れてきたはずなのに、弦を押さえるのが難しくて音が出しにくい…それはもしかしたら弾き方の問題ではなく、弦高が高くなってしまっているかもしれないのです。

f:id:kobayashi-strings:20190110233514j:image

今回は道具を使います。私はスチール製の写真のような定規を使っていますが、目安としてわかればいいので似たようなものであれば大丈夫です。なるべく細いものの方が使いやすいと思います。

楽器を横にもちます。弦に触れないように軽くグリップを握り、椅子に座って太腿の上に抱えるように持つと安全です。

計測するのはE線とG線です。駒はゆるやかなカーブになっているので、よほど変な形でない限り、両端の弦の高さを測れば大丈夫です。

f:id:kobayashi-strings:20190111191712j:image

まずはE線の高さを測ってみましょう。

指板の端に定規を立て真横から目盛りを読みます。このとき定規を持つ手に力が入り過ぎないように注意です。力を入れすぎると指板が曲がって目盛りがズレてしまいます。軽く、定規を載せる感じです。

この楽器だと3.1〜3.2ミリってところでしょう。

f:id:kobayashi-strings:20190111191729j:image

G線も測ります。これですと、5〜5.1ミリくらいですかね。

フルサイズのバイオリンですと、標準的な弦高は

E線:3〜4㎜   G線:5〜6㎜

くらいが目安になります。厳密に言えば、指板の反りも関わってきますので、あくまでも目安です。

写真の楽器は標準的な高さと言えますね。

弦高は特にハイポジションを押さえるときに影響が大きいです。

弾きづらいかも…と感じたら計測してみてください。上記した上限を超えていたら駒調整をしてみると、グッと弾きやすくなるかもしれませんよ。

 

弦楽器工房こばやしは小田原の栢山から、弦楽器の出張修理を承っております。

詳しくはホームページをご覧ください。

https://musical-instrument-repair-shop-51.business.site